【書評】コロナ禍を生き延びる精神性を学ぶ〜『賢者の書』(著:喜多川 泰)〜
前回の記事を書いてからかなり生活の変化がありました。
オフィスへの出社は7~8割減、急遽自宅にテレワークの環境を整え、新たな生活に慣れるべく試行錯誤しています。
日々、医療現場で懸命に治療にあたっている医療従事者の方々をはじめ、私達の生活を支えてくれているスーパーの従業員、宅配業者の方々など、社会のインフラを担ってくださっている皆様に深く感謝しながら、今日の記事を書きたいと思います。
今日は、この混沌とした今だからこそ読みたい一冊をご紹介します。
①一言でいうとこんな本
結論から言うと、この本は購入を強くお勧めする名著です。
一言でいうと、この本は
- 中年サラリーマンの主人公アレックスが、「賢者」を目指して9人の賢者から教えを乞う旅をしている少年サイードと出会い、
- サイードの持っていた旅の記録、『賢者の書』を読んで、人生において大切なものに気づいていく物語
です。
読者はアレックスに自分を投影し、『賢者の書』から人生のエッセンスを学び取れるように工夫されています。
実は、私がこの本と出会ったのは10年前。
10年経ち、前回の記事を書いたときにふとこの本の存在を思い出して、急いで注文して読み直しました。
それくらい、当時大学生だった私の心に深く刺さるメッセージが込められていました。
第1刷は2009年。2019年に第13刷が発行され、この10年増刷され続けています。
②最も心に残ったメッセージ
9人の賢者の教えの中でも、私の心に深く突き刺さったのがこちらです。
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自分の幸せばかりを願う人にとって、この世は辛いことが多く、思うようにいかず、楽しいことの少ない試練の場になる。
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他人を幸せにできることを探す人にとっては、この世は喜びに満ちた、楽しいことの多い、チャンスに満ちた輝ける場になる。
この文章だけではイメージが湧きづらいかと思います。
このメッセージを支える物語の内容はこうです。(適宜要約しています)
砂漠に2つのオアシスがあり、東のオアシスには800人、西のオアシスには200人の住民がいる。
それぞれに住む民は、自分の暮らすオアシスのルールに従って生きなければならない。
東のオアシスのルールは「自分の幸せのみを切に願うこと」
西のオアシスのルールは「他人の幸せのみを切に願うこと」
その結果、それぞれの街の状態はどうなっているか。
東のオアシスは、公共のあらゆる場が汚れ、争いが絶えず、人間関係を作るのも難しい。道路は皆好き勝手に往来して危険極まりなく、他人に財産を奪われるのではないかと気の抜けない毎日を送らなければいけない。
一方、西のオアシスは、他の人のために頑張らなければいけないが、街のあらゆるところがとても美しい。人を喜ばせる歌や踊り、食べ物などが豊富にあり、皆仲がよく、協力し合って平和な街を創り上げている。
西のオアシスに住んだほうが幸せになれるのは明らかだ。
東のオアシスに住めば800人の中で自分のことを幸せにしてくれようとするのは自分一人しかいない。
しかし西のオアシスに住めば、自分のことを幸せにしてくれようとするの人が199人もいることになる。
世の人は誰もが幸せになりたいと願っている。それゆえ、自分を幸せにしてくれることを探して生きることになる。
ところがそんな便利なものは、そうそう見つけられない。だから、多くの人がなかなか幸せになれずに、この世はつまらない、楽でないと苦しむことになる。
一方で、世の中にはごく少数ではあるが別のものを探して生きている人間たちもいる。世の中の誰かを幸せにしたいと願っている人たちだ。そういう人たちにとってこの世ははこれ以上ないほど、楽しいことの多い、そしてチャンスに満ちた輝ける場所だ。
この世には東西オアシスのようなルールはない。
だから、どちらを選んで生きようが勝手だ。
ところが自然と人々はどちらかを選んで生きている自分を幸せにするものか、他人を幸せにするもののどちらかを。
③考察
いかがでしたでしょうか。
とてもシンプルな設定ですが、当時の私はこの本質的な示唆にハッとしました。
もどかしいのは、西のオアシスのほうが幸せになれそうだと誰もが頭でわかっていても、実社会では東のオアシスのルールで生きている人が多く、社会情勢が悪化するほどにその割合が増えていくことです。
特に今は、新型コロナウイルスによって、社会に「自分さえ良ければいい」と考えている人がどれだけ多いのかがあぶり出されました。
「自分は若者だから重症化しない」と街に繰り出す若者や、正義を振りかざして他者を完膚なきまでに攻撃することで心のバランスを保とうとする人などです。
程度の差こそあれ、私も東のオアシスのルールを無意識に選んで生きてきたと思いいます。
これまでは自分自身の心・体・経済の面倒を見るだけで精一杯だったからです。
周囲の人を支えるよりも、支えられてきた側面のほうが圧倒的に多かったと思います。
でも、「それではダメだ!!」と自分の内側から声が聞こえました。
こんなときだからこそ、他者の幸せを考え、自分にできることを探して行動しなければいけない、という強烈な衝動が湧き上がってきました。
お金がなくても、他者のためにできることはたくさんあります。
コミュニケーションを取ったり、役立ちそうな情報を共有したりするだけでも、十分他者の助けになるんです。
相手が本当に困っていることが何なのか。
その本質を掴めば、金銭的支援以外にもできることがたくさんあることに気がつけます。
理屈でうまく説明できませんが、コロナウイルスとともに生きる時代は、自己防衛本能が勝って自己の利益だけ追求するよりも、自分の持っている少ない資源を他者と分かち合いながら生きていこうとする人のほうが生き延びられる時代のような気がします。
仮にそうでなかったとしても、私は西のオアシスのルールを選び、気高く生きて、後悔のないように死にたいと強く思います。
この本では、この教えをはじめ、他にも8人の賢者が生きていく上での本質について、非常に重要な示唆を与えてくれます。
混沌とした世の中ですが、不安や情報の渦に飲み込まれるのではなく、この本を手にとって自静かに分と向き合ってみてはいかがでしょうか。
こんなときだからこそ、自分の内側を見つめることで人生の本質に気づくことができるかもしれません。
最後に、この本を書いてくださった喜多川泰さんに心からお礼を言いたいと思います。
素敵な本を世に出してくださってありがとうございます。